飲酒運転ひき逃げ死亡事故

死亡事故率

「あの時、私が冷静に運転しておけば健司さんが死ぬ
こともなく、妻が重傷を負うこともなかったのに...」

 

交通刑務所面会室のガラス越しに、苦悶の表情と浮かべた渡辺(35歳)だった。

 

渡辺と健司さんは幼いころから一緒に遊んだいとこ同士である。

 

その日も渡辺所有のミニバンに乗って午後7時頃から2人で一緒に
カラオケ店に行き、午後11時過ぎまで酒を飲んで歌いまくった。

 

ところが、健司さんが飲み過ぎたのか嘔吐しお腹を押さえて
苦しみだしたので、2人は慌ててカラオケ店を出て軽自動車
の助手席に健司さんを乗せ、一旦渡辺の自宅へ向かった。

 

午後11時30分頃渡辺の自宅に到着したので、助手席
の健司さんに「救急車を呼ぶから」と言うと、健司
さんは「救急車は恥ずかしいからいやだ」と言った。

 

渡辺は健司さんを助手席に残して自宅へ入り、電話帳で深
夜でも診察してくれる病院を探したが地元にはなく、約20
km離れた隣町の救急病院しかないことが分かった。

 

渡辺の妻はその時、子供と一緒に就寝していたところを夫に起
こされ、「健司さんが大変なんだ一緒に病院へ行ってくれ」と
言われ、子供を自宅へ残したまま車の後部座席へと乗り込んだ。

 

渡辺は飲酒状態でミニバンを発進させたが、隣町への約10kmは
長い下り坂で、国道とはいえ外灯もない片側1車線の道路である。

 

渡辺は時速80kmくらいでヘッドライトだけを頼りに坂を下って行った。

 

走行中に左カーブで健司さんが運転席に寄りかかってきたの
で、渡辺は左手で助手席へ健司さんを押し戻した時、運悪く
ハンドルが左に切れ、3人が乗った車は左路肩に設置された
道路標識の柱に左前部から突っ込んでしまったのである。

 

日付が変わった午前0時過ぎのことだった。

 

「事故現場の放棄・逃走は自損事故でもひき逃げ」

 

事故後しばらくして気が付いた渡辺は、車の左半分
が大破し、車外に放り出されて路肩の側溝の中で血
まみれになって倒れている健司さんを見つけた。

 

「体を押しても反応がなく死んでいると思いました」と語る渡辺の
耳には、「痛い、痛い」と泣き叫ぶ後部座席の妻の声も聞こえた。

 

その後、渡辺はパニック状態に陥り不可解な行動をとる。

 

そのまま事故現場を離れて山の中へ入り、山中
を徘徊したのち翌朝友人宅へ現れたのであった。

 

「山中で自殺しようと思いました」

 

その時の心境を渡辺はそう説明した。

 

友人から実家へ連絡がいき、渡辺は母親に付き添われて警察へ出頭した。

 

「飲酒死亡ひき逃げ事故で家庭崩壊の危機」

 

交通刑務所面談の時の渡辺はいまだ未決囚で、
これから公判が始まるが懲役は免れないだろう。

 

その後入院先で妻にも会ったが、骨盤骨折と
左手首骨折の大けがで車いすに乗っていた。

 

「あなたが飲酒していたことはわかっていたのに、なぜあの時
私が変わって運転しなかったのだろう...」「そうしていれば健
司さんも死なずに済んだのに...」と、妻はうつむいて泣いた。

 

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